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Mのケース


[26歳/女性/会社員/未婚]

私は幼い頃、森の中の小さなお家に母と二人で住んでいました。近くには村があり、その村人達に薬草などを売って生活していました。

ある日、村の人が大勢押しかけてきて、母が煎じた薬草が原因で村の子供が一人亡くなったと母を攻め立てました。私の母はその後、「子供に毒を飲ませて殺した魔女」ということで、村人達に連れて行かれてしまいました。母を連れて行った人たちは当時14歳位の私を「魔女の子供」として古い井戸のようなところに閉じ込めました。私は一人でその狭い、石に囲まれたじめじめとしたところで4年暮らしました。食事は私にとってたった一人の小さな友達が、紐などでパンや飲み物を結んで、十数メートル上から下ろしてくれました。私よりも2、3歳小さいこの友達はきれいな金髪を持ち、村人の誰からも愛されていた存在だったので、彼女の行動をあからさまに非難する人はいませんでした。彼女のおかげで私は生き延びることができたのです。

閉じ込められてから4年たった頃、村の教会に新しい神父様がいらっしゃいました。その神父様は私のことを村人から聞き、「母親が魔女だったとしても、この子が現実になにか悪いことをした訳ではないのでは?この子がここに閉じ込められてから、何か悪いことが起こりましたか?本当にこの子が、魔女であれば閉じ込められていた4年間のうちに呪いや魔術であなた達村人に災いを起こしていたのではないでしょうか?母親が魔女だからといってこの子が魔女であるとは限らないでしょう。」と村人たちに、私を自由にするようにと説得してくれました。村人たちは神父様に根負けして私を古井戸から出してくれました。私の復讐を恐れた村人たちは、私を自由にする条件として神父様と一緒に教会で暮らすようにと約束させました。私が始めて明るいところで見た神父様は、とてもお年を召していて長い白い髭をしていました。それから私は神父様と教会で暮らすようになりました。ある日私はとても悲しい出来事に遭遇しました。私をずっと信じて慕っていてくれた金髪の少女が湖で亡くなってしまいました・・・。私はとても悲しく引き上げられた遺体にすがって泣きました。彼女がいなければ私は母がいなくなった後、生きていくことができなかったのですから。水に濡れた遺体はとても冷たく、彼女の白い肌は象牙のように更に白くなっていました。母がいなくなってから私の心の支えだった彼女を失って、私はまた森の中の母と暮らしていたときの家に戻りました。村で暮らすことに意味がなくなったのです。私が村で暮らしていたのは、その女性がいたからと神父様のためでした。神父様も私が森に戻ることを了承してくれました。それから私は、幼い頃に母が教えてくれた薬草などの知識を生かし、母と同じように薬草などを集め、それを売って生活するようになりました。その頃には村の人たちも母へ対する疑惑も消え、反省してくれました。私はその森で生涯を終えました。

私はこの人生で、目立った行動は良くないということ、おごってはいけないということを学びました。母が魔女扱いされたのも母の薬草が良く効き、村人たちの中で有名になったことにより、子供を亡くしてしまった女性の悲しみや憎しみの対象になってしまったからです。母にも自分の薬草が絶対に効くはずだという驕りがありました。それが余計に村人の反感をかったのです。

私は森で生活をするようになってからは、ほとんど人と接しないで生活していました。たった一人を除いて。その一人とは、森に暮らす狩人の人で彼は大きな体躯を持ち、髭を蓄え獲物で作った毛皮を着ていました。彼もまた人と接するのを嫌い、森で一人暮らしていました。彼はたまに私の家を訪れ、言葉好くなにその日の獲物を私に差し出すのでした。そんな不器用な彼は、私に好意を持ってくれていたようです。彼は私が死を迎える時にもずっとそばにいてくれました。私の死を見取ってくれたたった一人の人でした。彼や金髪の少女、神父様がいたので私は人を呪うことなく安らかに死を迎えることができました。